気腫合併特発性肺線維症の臨床病理学的特徴
伊藤 貴文a 杉野 圭史a 坂本 晋a 黒崎 敦子b 植草 利公c 本間 栄a
a東邦大学医療センター大森病院呼吸器内科
b虎の門病院放射線診断科
c独立行政法人労働者健康福祉機構関東労災病院病理診断科
気腫を合併した特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)をcombined pulmonary fibrosis and emphysema(CPFE)として,その臨床的特徴ならびに予後因子を明らかにし,次にCPFEの発癌部位に関して病理組織学的特徴を明らかにすることを目的とした.過去6年間に,東邦大学医療センター大森病院にて胸部HRCT検査を行った,気腫性病変と両肺に蜂巣肺を呈するCPFE患者(E群)35例を対象に,同時期に入院した気腫非合併IPF患者(F群)57例と比較し,臨床的特徴を検討した.次に原発性肺癌合併のために外科的肺切除術を施行され,病理組織学的にE群と診断された6例を対象に,気腫あるいは線維化と発癌の関連性について,F群,肺気腫群と対比し病理組織学的にその特徴を検討した.患者背景ではE群で有意に喫煙指数が高く,原発性肺癌の合併も多かった.予後はE群で有意に不良で,予後不良因子として肺気腫,原発性肺癌,肺高血圧症,composite physiologic index増加ならびに急性増悪などが挙げられた.また肺癌合併例を除いた両群においても,予後はE群で有意に不良で,肺気腫の合併が単独の予後不良因子であった.さらにE群において,肺癌合併の有無別の予後に差は認めず,予後不良因子は,急性あるいは慢性増悪であった.病理組織学的に原発性肺癌合併E群の発癌部位は気腫あるいは線維化病変を伴った気腫に隣接しており,この線維化病変は線維芽細胞巣,肺胞虚脱および胸膜下病変が目立たず構造破壊が顕著で,F群にみられる線維化とは異なるものであった.E群ではF群に比して原発性肺癌の合併率が高いものの,肺癌合併の有無にかかわらず予後不良であった.病理組織学的には,E群の発癌母地としてF群とは異なる線維化を伴った気腫の存在が重要であることが示唆された.
Received 12 Sep 2011 / Accepted 30 Nov 2011
連絡先:杉野 圭史
〒143-8541 東京都大田区大森西6-11-1
東邦大学医療センター大森病院呼吸器内科
日呼吸誌, 1(3): 182-189, 2012