糞線虫による胸膜炎が疑われたHTLV-Iキャリアの1例
大谷 秀雄1) 森 進一郎1) 土橋 美子1) 黒野 明日嗣2) 溝口 亮3) 川畑 政治3) 有村 公良3) 納 光弘3)
〒899-1611 鹿児島県阿久根市赤瀬川4513 1)阿久根市民病院呼吸器内科 2)同 神経内科 3)鹿児島大学医学部第3内科
糞線虫による胸膜炎が疑われたhuman T-lymphotropic virus type I(HTLV-I)キャリアの一例を報告した.症例は73歳,女性.呼吸困難,発熱,全身浮腫にて発症した.入院時の検査所見で両側胸水,心拡大,頻拍性心房細動と左室機能低下及び右心系負荷所見が認められたため,心不全として治療を開始した.治療後,浮腫と呼吸困難は改善を認めたが,胸水貯溜は遷延した.胸水の原因確定のため行った左胸腔穿刺の所見は,滲出性胸水の所見を呈し,穿刺液よりラブジチス型の糞線虫が検出された.thiabendazole(1500mg/日,3日間)を2クール投与後,胸水は著明に改善した.本症例は,免疫不全をきたす基礎疾患は有していなかったが,血清抗HTLV-I抗体が陽性であった.HTLV-I高浸透地区においては,胸水貯溜の鑑別として糞線虫による胸膜炎も考慮が必要と考えられた.
Received 平成9年4月8日
日呼吸会誌, 36(3): 262-267, 1998