サリン曝露後,温泉水誤嚥で発症した重症レジオネラ肺炎の1例
上村 光弘1) 加藤 温1) 川田 博1) 工藤 宏一郎1) 柳下 芳寛2) 新野 史3) 斎藤 澄3) 斎藤 厚4)
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-21-1 1)国立国際医療センター呼吸器科 2)同 麻酔科 3)同 病理学 4)琉球大学医学部第1内科
症例は72歳,男性.1995年3月20日,築地駅においてサリンに曝露された.直後より筋力低下などの症状が出現したが,同日温泉旅行に出発した.5日後,脱力感の増強及び熱発を認め入院した.その後呼吸不全が急速に増悪し,気管支鏡にて採取した痰より,培養とPCRにてレジオネラ菌が検出された.抗生物質及びステロイド療法により一時的に呼吸状態の改善をみたが,二次感染を繰り返し入院第71日目に永眠された.サリンのニコチン作用による咽喉頭筋不全が温泉水誤嚥を誘発し,レジオネラ肺炎発症に至ったものと推測された.経気管支肺生検標本では著明な器質化肺炎を認めた.気管支鏡検査では気道の広範な発赤,浮腫,易出血性及び不整粘膜病変を認め,レジオネラ症による中枢気道病変が示唆された.
Received 平成9年5月26日
日呼吸会誌, 36(3): 278-282, 1998