肺腫瘍塞栓症による肺性心が初発徴候であった胃癌の1剖検例
松田 宏幸1) 千田 金吾1) 三輪 清一1) 中野 秀樹1) 桑田 博史1) 鈴木 研一郎1) 横村 光司1) 朝田 和博1) 中村 祐太郎1) 乾 直輝1) 須田 隆文1) 中村 浩淑1) 内藤 恭久2) 椙村 春彦2)
〒431-3192 静岡県浜松市半田山1-20-1 1)浜松医科大学第2内科 2)同 第1病理
肺腫瘍塞栓症による肺性心は悪性腫瘍の合併症として比較的まれな病態である.しかし,肺性心が悪性腫瘍の初発徴候として発症する例があり,診断に苦慮する場合も少なくない.今回我々は重篤で急激に進行した肺性心にて入院し,剖検にて胃癌による肺腫瘍塞栓症と診断した症例を経験したので報告した.症例は47歳の男性.咳嗽と呼吸困難を主訴に入院となった.入院時に著明な低酸素血症があり,胸部単純X線写真にて,心拡大と肺動脈の拡張,また両肺野に粒状陰影を認めた.心エコーでは著明な右室系の拡大があり,肺血流シンチグラムにて多発性の欠損像を認めた.以上より肺塞栓症による肺性心と診断し,各種の治療を行ったが反応せず死亡した.剖検にてBorrmann IV型の胃癌と末梢肺動脈内に腫瘍塞栓が証明された.急速に進行する肺性心を診断した場合,その原因として悪性腫瘍の既往の有無にかかわらず,肺腫瘍塞栓症も考慮する必要がある.
Received 平成14年1月10日
日呼吸会誌, 40(11): 910-914, 2002