気道過敏性の病態とその治療への応用
国立療養所南福岡病院臨床研究部
気管支喘息は可逆性の気道閉塞,気道炎症,気道過敏性で特徴付けられる.気道過敏性には遺伝的素因と環境因子が関与しているが,気道過敏性を規定する遺伝因子はまだ解明されていない.後天的因子として種々の刺激の結果生じる気道炎症が喘息の病態と気道過敏性の亢進に重要である.気道過敏性の測定と誘発喀痰による気道炎症の検査は喘息の病態の評価に有用である.喘息の気道で好酸球,Tリンパ球,好中球などの炎症細胞が重要な役割を果たしていることが知られているが,喘息の病態と気道過敏性の亢進にもっとも関与している炎症細胞は好酸球である.好酸球数とeosinophil cationic protein(ECP)値は喘息患者の気道で上昇し気道過敏性の程度と相関し,気道炎症が気道過敏性亢進の主因と考えられている. 小児喘息の約70%は思春期に症状が消失しいわゆるout-growすると言われている.しかし,小児喘息の既往のあるout-growした若年者での気道炎症と気道過敏性の関係についてはまだよくわかっていない.out-growした若年者を対象にしたわれわれの検討では,10年以上無症状のout-grow症例のほとんどは気道過敏性が陽性であった.そして,小児喘息の罹病期間,喀痰中の好酸球比率,喀痰中のTNF-α値が気道過敏性と有意に相関していた.23例のout-grow症例中わずか3例は気道過敏性は陰性であり気道炎症の所見は認められなかった.IgE-RIST,末梢血中の好酸球数とECP値は気道過敏性と相関しなかった.それ故,気道過敏性の評価には末梢血のいかなる指標も信頼できず,誘発喀痰を用いての気道炎症の評価が重要である. 誘発喀痰を用いての検討から,いったん獲得した気道過敏性は容易には消失せず,気道炎症の持続が気道過敏性に影響しているものと思われる.たとえ症状がなくても気道過敏性が残存している症例は治癒ではなく緩解状態であり,喘息再発の危険性を有している. ステップ1,2の軽症の時から吸入ステロイドを中心とした抗炎症薬によるEarly interventionが喘息の難治化と気道リモデリングの予防に重要であると思われる.
日呼吸会誌, 41(9): 606-610, 2003