喀血の治療中に慢性肺血栓塞栓症の急性増悪をきたした本態性血小板血症の1例
阿部 徹哉 林 正周 坂上 拓郎 筒井 奈々子 伊藤 一寿 中嶋 治彦 原口 通比古
〒950-8739 新潟県新潟市紫竹山2丁目6-1 新潟市民病院呼吸器科
症例は89歳女性.本態性血小板血症のフォロー中に慢性呼吸不全と診断し,抗血小板療法(アスピリンの内服)と在宅酸素療法を行っていたところ喀血をきたし緊急入院した.アスピリンの中止とトラネキサム酸の点滴などで喀血は改善したものの,その後に急激な呼吸不全の進行を認め,諸検査より慢性肺血栓塞栓症の急性増悪と診断した.アスピリンの再開のみで呼吸不全は改善傾向となりリハビリ後に軽快退院となった.本態性血小板血症は血小板の増加と機能異常により血栓症状および出血をきたす疾患であるが,肺血栓塞栓症の合併の報告は少なく貴重な症例と考えられた.また今回の急性増悪の原因としてはアスピリンの中止や安静臥床の他に止血のために使用したトラネキサム酸が関与した可能性もあり,本態性血小板血症における出血に対して止血剤を使用する場合には十分な注意が必要であると考えられた.
本態性血小板血症 慢性肺血栓塞栓症 急性増悪 トラネキサム酸 アスピリン
Received 平成17年11月24日
日呼吸会誌, 44(9): 665-669, 2006