肺切除術から約10年後に発症しSildenafilを投与した肺動脈性肺高血圧症の1例
下川 美穂 坂巻 文雄 青木 琢也* 余語 由里香 海老原 明典
〒108-0073 東京都港区三田1-4-17 東京都済生会中央病院内科(呼吸器内科) *水戸赤十字病院内科
70歳男性.約1年前からの労作時呼吸困難にて来院.58歳時に肺腺癌にて右上葉切除術,65歳時に左上葉肺癌にて左上葉部分切除術の既往あり.右心カテーテルにて重症肺動脈性肺高血圧を認めた.プロスタサイクリン誘導体(Beraprost)投与,在宅酸素療法を導入したが,呼吸困難が進行したため,約8カ月後よりphosphodiesterase-V阻害薬(Sildenafil)内服を開始した.開始後NYHA IV度からIII度へと自覚症状の改善傾向を認めた.しかし約2年後,鼻出血後に突然心肺停止となり死亡した.剖検にて肺動脈拡張及び右室肥大,肺細小動脈の線維性内膜肥厚と内腔の狭小化を認めた.本例は肺癌術後の肺血管床の減少,低酸素血症の関与等はあるが原因不明の肺動脈性肺高血圧に近い病態と考えられ,BeraprostにSildenafilを追加することで,自覚症状や諸検査所見の改善が得られた症例である.
Received 平成18年1月11日
日呼吸会誌, 44(11): 817-822, 2006