ボリコナゾールによる抗利尿ホルモン分泌異常症候群を認めた肺アスペルギルス症の1例
磯部 和順1) 村岡 成1) 杉野 圭史1) 山崎 陽子1) 菊池 直1) 濱中 伸介1) 高井 雄二郎1) 清水 邦彦1) 木村 一博1) 廣井 直樹3) 渋谷 和俊2) 本間 栄1)
〒143-8541 東京都大田区大森西6-11-1 1)東邦大学医療センター大森病院呼吸器内科 2)同 病理部 3)同 糖尿病内分泌センター
症例は75歳男性.喀血を主訴に受診.胸部CTで左肺底部の陳旧性肺結核の遺残空洞周囲に浸潤影が認められた.血清アスペルギルス抗原,抗体陽性より慢性壊死性肺アスペルギルス症と臨床診断した.ボリコナゾール400 mg/日を経口投与開始したところ21日目より肝障害,低Na血症が認められた.血清Naは122 mEq/Lと低値で尿中Naは135 mEq/Lと相対的に高値を認めsyndrome of inappropriate antidiuretic hormone(SIADH)と診断した.ボリコナゾールの投与を中止したところ10日後に血清Na値は135 mEq/Lまで改善した.15日目のボリコナゾールの血中濃度は18 μg/mlと高く(安全性を考慮した有効血中濃度:1.5~4.5 μg/ml),遺伝子多型の解析ではチトクロームP450(CYP2C19)の変異が確認された.以上より本症例はCYP遺伝子多型の変異によりボリコナゾールの血中濃度が異常に上昇し,薬剤性のSIADHが出現したと考えられた最初の症例報告である.
肺アスペルギルス症 慢性壊死性肺アスペルギルス症 ボリコナゾール SIADH 遺伝子多型
Received 平成18年11月8日
日呼吸会誌, 45(6): 489-493, 2007