健康成人に発症したムコールによる胸壁膿瘍の1例
富永 正樹 小宮 一利 岡本 純明 梅口 仁美 松尾 綾子 岩永 健太郎
〒840-8571 佐賀市水ケ江1丁目12番9号 佐賀県立病院好生館内科
症例は80歳の男性,2007年1月に前胸部の皮疹で当院皮膚科に通院中であったが,8月に痛みを伴うようになり,皮下から胸壁に拡がる膿瘍を認めたため呼吸器科紹介となった.CTガイド下に穿刺・生検を行い,組織で類上皮細胞性肉芽腫は認めるものの,穿刺液の培養では特に有意な菌の検出はなかった.結核性膿瘍が最も疑われたため,診断的治療として抗結核剤の投与を開始した.治療開始後すぐに自己中断して来院されなくなったが,10月に自潰して疼痛も伴うようになり再診.2回目の生検結果も同様であり,抗結核薬を再開した.しかし,全く効果は認めず2008年8月に再増悪したため3回目の生検を行った.変性を伴った組織中に無隔菌糸の集塊を認め,ムコール感染症と診断した.アムホテリシンBリポソーム製剤の投与を行い,縮小した時点で外科的に切除を行った.その後追加投与を行い治療終了としたが,現在まで再発は認めていない.
Received 平成21年11月9日
日呼吸会誌, 48(6): 454-457, 2010