ゲフィチニブにより肺血栓塞栓症が改善した肺腺癌の1例
柳谷 典子 堀池 篤 工藤 慶太 大柳 文義 西尾 誠人 宝来 威
〒135-8550 東京都江東区有明3-8-31 癌研究会癌研有明病院呼吸器内科
症例は56歳喫煙者男性で,左S4原発の肺腺癌,臨床病期IB期(T2N0M0)と診断され,2008年10月に手術が施行されたが,胸膜播種を認めたため閉胸された.2009年8月に胸部コンピューター断層(CT)写真にて縦隔リンパ節の増大を認め,同年9月の胸部CT写真で,新たに肺動脈血栓を認めた.肺血栓塞栓症と診断し,抗凝固療法を開始したが,肝機能異常が出現したためワーファリンを中止した.約3週間後の胸部CT写真で,血栓は増大傾向を示した.手術検体で上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異陽性と判明し,ゲフィチニブによる治療を開始した.リンパ節は著明に縮小し,血栓も消失した.10カ月経過した現在も内服を継続しており,血栓の再燃はみられていない.本症例のように,化学療法による高い抗腫瘍効果が期待される症例では,原疾患である肺癌を治療することで,原疾患とともに肺血栓塞栓症も改善する可能性があるため,化学療法のタイミングを逸することのないよう総合的な判断が必要である.
Received 平成22年8月31日
日呼吸会誌, 49(4): 282-286, 2011