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第49巻第1号目次 Japanese/English

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Article in Japanese

─ 第23回肺癌集検セミナー ─

疫学からみた石綿関連疾患―過去,現在,未来―

森永 謙二1
1独立行政法人労働安全衛生総合研究所(産業医学総合研究所)

石綿関連疾患としては,石綿肺,肺がん,中皮腫及び非腫瘍性の胸膜病変がある.石綿肺による死亡は実際よりも過小評価されているが,最近の10年間(1995~2004年)では242人の死亡が観察されている.石綿曝露者を対象とした疫学調査は我が国ではさほど多くない.欧米の疫学調査からは石綿の累積曝露量が25~100繊維×年あると,肺がんのリスクは2倍になると見積もられている.非腫瘍性の胸膜疾患(良性石綿胸水,びまん性胸膜肥厚)の報告は我が国では乏しい.中皮腫や石綿肺がんと同様,石綿曝露歴の聴取が不十分である可能性がある.胸膜プラークについても胸部X線やCTでの診断基準がなく,一部の地域での読影結果は経験に乏しい読影により,信頼性に乏しい可能性がある.中皮腫の死亡数は1970年代に増加傾向が始まったと推測される.2006年の死亡数は全部位で男性807,女性243であった.死亡統計では診断精度に疑問が残り,将来予測にはより精度の高いデータに基づいた解析が必要であるが,現在試みられている任意申請による中皮腫登録では,正確なデータは担保できない.中皮腫は職業曝露によるものが最も多いが,近隣曝露,家庭内曝露の事例も明らかにされている.石綿救済法の施行に伴い,中皮腫の診断精度の向上が要求される.全国規模の中皮腫パネルの設置が望まれる.
索引用語:石綿関連疾患, 石綿, 疫学, 中皮腫

肺癌 49 (1):39─47,2009

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