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第55巻第1号目次 In Japanese

─ 編集後記 ─

編集後記

鍋島 一樹
福岡大学医学部病理学講座・病理部

この冬は北陸,東北地方や北海道では何度となく暴風雪の吹き荒れた厳しいものでしたが,九州ではそろそろ桜の芽も色づいて膨らみ始めています.この号が届けられる頃には桜の開花前線が北上しているのではないかと期待しています. 本号は,1編の原著,10編の症例報告から構成されており,カバーする範囲も中皮腫が2例,扁平上皮癌,腺癌がそれぞれ2例ずつ,多形癌1例,クリゾチニブの肝機能障害に関するもの2例,胸腺腫瘍2例と広く,内容も多彩で豊富です.原著は,単一施設での後ろ向き解析ですが,胸膜肺全摘術(EPP)後に放射線療法施行群では未施行群に比べて生存期間が有意に長いこと,化学療法の施行時期(術前vs術後)の問題点の指摘,右側EPPで予後の悪い傾向など,貴重な示唆が見られます.前向き研究の基礎となるものだと思います.同じく中皮腫では,稀な骨格筋転移症例が,放射線治療がQOLの改善に有効であったということと共に報告されています.QOLの点から転移巣への治療も重要性を増していますが,本号には胃への転移(腺癌),気道内転移(多形癌)に対する外科的あるいは内視鏡的治療についてもその適否や施行時期を含めて報告され,肺炎型の進展を示した腺癌への外科的治療の可能性を提示した報告も見られます.放射線治療後の長期生存では放射線誘発癌も時に問題となりますが,その可能性の考えられた小細胞癌,小細胞癌に伴うことの多い傍腫瘍神経症候群を呈した扁平上皮癌,まれな増殖態度や組織像を呈した胸腺腫瘍の報告も含まれています.Driver oncogeneの発見と分子標的薬の出現は肺癌治療を大きく変えつつありますが,分子標的薬による副作用のコントロールという新たな課題も生じています.ALK陽性肺癌に関する2つの症例報告において,クリゾチニブ使用による肝機能障害に対して,ステロイド投与,休薬と減量さらにはアレクチニブへの変更による対処が示されています.これらの症例の積み重ねが有効な対処法に結びつくと期待しています. もうすぐ新年度が始まり,新たな研修医を迎えられる施設も多いことと思います.彼等の研修にも役立てばと念じるところです. 最後に投稿いただいた先生方,査読いただいた先生方にこころより感謝申し上げます.

肺癌 55 (1):81─81,2015

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