タイトル
第56巻第4号目次 In Japanese

─ 編集後記 ─

編集後記

矢野 智紀
愛知医科大学医学部外科学 呼吸器外科分野  

平成28年の夏はリオ五輪や選挙など話題に事欠かない,思い出深い夏になりました.本号は11編の症例報告のみから構成されておりますが,この夏同様に非常に興味深い内容になっております.全て肺癌または転移性肺腫瘍に関する症例報告ですが,豊富な内容になっております.11編のうち化学療法に関する話題が4編報告されています.ALK融合遺伝子陽性肺癌の話題が2編ですが,クリゾチニブ耐性癌性髄膜炎のアレクチニブ奏効例の報告とアレクチニブ耐性後のクリゾチニブ奏効例の報告は,同じALK阻害剤であっても必ずしも交叉耐性を示さないことが示され,抗癌剤治療の可能性を広げます.さらにペメトレキセドの再投与の有用性が報告され,多くはEGFR遺伝子変異陽性症例であり,一次治療後の二次治療,三次治療にも福音がもたらされることになります.またアファチニブによる癌性髄膜炎の奏効例が報告され,EGFR-TKIの使い分けが今後検討されるべき課題であると思われます.稀な肺腫瘍として肺絨毛癌が報告されましたが,特異な既往歴から原発性か転移性かの鑑別に苦慮されました.稀な肺癌の経過として自然縮小を認めた多形癌が報告されました.肺癌に合併した多発筋炎や孤立性膵転移は稀な病態であり,とくに膵転移は穿刺吸引細胞診で確定診断されており,診断医の熱意が伝わります.また微小肺小細胞肺癌の肺門リンパ節転移の症例報告においても同様に原発巣を発見した診断医の熱意が伝わります.膵癌の肺転移が原発性肺癌と共存した症例報告は多発肺癌,特に多発すりガラス状陰影を呈する症例が増加している昨今では教訓的な症例報告であります.手術手技の工夫の報告として肺癌の大動脈浸潤に対して大動脈ステントグラフト内挿術を先行し大動脈を合併切除した症例が報告されました.人工心肺や人工血管置換術を回避できる理想的な手術の一つでありますが,実際に大動脈浸潤がなければ無駄な処置になるため術前の正確な大動脈浸潤の評価が必要であります.いずれも実臨床に役立つ症例報告であり,全ての会員に目を通していただけることを切に望みます.また貴重な症例をご報告いただきました著者の皆様,査読に尽力いただきました査読者の皆様には改めて御礼申し上げます.

肺癌 56 (4):330─330,2016

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