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第57巻第3号目次 In Japanese

─ 編集後記 ─

編集後記

岡本 龍郎
大分大学医学部呼吸器・乳腺外科学講座

近年肺癌診療においては,免疫チェックポイント阻害剤によるブレイクスルーがあり,また次世代シーケンスやリキッドバイオプシーが実用化に向かうなど,大きな転換期に直面しています.新たな知見・診療から,種々のクリニカルクエスチョンが生まれ,さらなる肺癌診療の発展を実感できます.さて,本号では,2編の総説,3編の原著論文,7編の症例報告を掲載しています.最初の総説では,肺癌TNM分類(第8版)改訂について,改訂部分の詳細な解説がされ,現時点での問題点が述べられています.American Joint Committee on Cancer(AJCC)が第8版の施行を来年に延期したとのことですが,本邦では予定どおり本年1月より使用されています.本総説を,第8版の正確な運用に役立て,新たな問題提起を行っていくことが望まれます.2編目は,現在なお混沌とするN2非小細胞肺癌の治療に関しての総説です.治療成績改善に向けた過去の試みから最新の試みに至るまでが詳細にまとめられており,優れた洞察による解説がされています.原著論文3編はすべて非小細胞肺癌の薬物療法に関する研究報告です.ALK阻害剤既治療のALK変異陽性肺癌症例に対するセリチニブの第1相試験の結果は.ALK肺癌の治療薬選択にかかわる非常に重要な報告であります.間質性肺炎合併肺癌におけるS-1治療,EGFR治療における制酸剤併用の報告は,実地診療におけるクリニカルクエスチョンに即した興味深い研究報告です.症例報告では,比較的稀な臨床像を示した肺癌に関して3編の治療報告と,非小細胞肺癌の最近の薬物療法に関係した治療報告4編の構成になっています.osimertinibの症例報告は,たとえ優れた薬物であっても,ヘテロな耐性細胞集団に立ち向かうときは,やはり困難に見舞われてしまうことを教えてくれます.また一方で,治療抵抗性の腫瘍である肺多形癌に対し,血管新生阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤の効果が見られたとの報告は,近年の薬物療法の多様化が,さらなるターゲットの開拓につながることを示しています.これらの貴重な論文報告が,明日からの実地臨床への糧となり,さらなる肺癌診療の改善につながることを期待します.ご投稿頂いた先生方,査読頂いた先生方に深謝申し上げます.

肺癌 57 (3):257─257,2017

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