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第57巻第6号目次 Japanese/English

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Article in Japanese

─ 総説 ─

肺癌に対する重粒子線治療の現状と展望

塩山 善之1, 末藤 大明1, 篠藤 誠1, 寺嶋 広太郎1, 戸山 真吾1
1公益財団法人佐賀国際重粒子線がん治療財団九州国際重粒子線がん治療センター

体幹部定位放射線治療(SBRT)や強度変調放射線治療(IMRT)に代表される線量集中性を向上させた高精度エックス線治療が急速に普及し,肺癌領域においても,I期肺癌に対する高線量局所照射の有用性が確認されるとともに,局所進行期肺癌においては心毒性などの低減に有効な可能性が示唆されている.現在,さらなる治療効果の向上を目指した線量増加などの治療法開発が進められている.しかし一方で,放射線治療の対象は,心肺予備能の低い患者や高齢者を対象とすることが多く,肺臓炎,心毒性などの有害事象には十分留意する必要もあるが,局所進行期肺癌に対する第III相比較試験の結果,線量増加は有害事象も避けられず,生存率改善に寄与しないことが判明するなど,エックス線治療の限界もうかがわせる.陽子線や炭素イオン線を用いた荷電粒子線治療は,本格的な臨床応用,普及の段階に入り,さらなる有害事象の軽減ならびに治療効果向上を可能とする新たな放射線治療として期待されている.荷電粒子線の最大の特徴は,ある一定の深さで高線量域(Bragg peak:ブラッグ・ピーク)を形成したうえで止まるという特徴を有し,このピークを腫瘍の位置や大きさに合わせて調節することで標的に集中した高線量領域を形成できることである.そのため,粒子線治療では少ない方向からの照射によって癌病巣へ線量を集中することができ,中低線量域の拡がりを最小限に抑えることが可能となり,肺臓炎や心毒性などの有害事象リスクの軽減に寄与する.また,炭素イオン線においては殺細胞効果が高く,低酸素状態や細胞周期などの影響を受けにくいという生物学的特徴もある.このような粒子線治療の理論的有用性は,単施設による検討ではあるものの,数々の臨床研究によって裏づけられてきた.現在は,多施設共同臨床研究も精力的に行われており,臨床的有用性に関するエビデンスが今後さらに明確となることが期待されている.
索引用語:肺癌, 非小細胞肺癌, 放射線治療, 重粒子線治療, 低侵襲

肺癌 57 (6):723─732,2017

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