タイトル
第59巻第2号目次 In Japanese

─ 編集後記 ─

編集後記

礒部 威
島根大学医学部内科学講座 呼吸器・臨床腫瘍学

平成が終わり新しい元号となる.私は昭和の最後の年から呼吸器科としての専門研修を開始したので,平成の年号と共に肺癌という病気を眺めてきた.平成の31年間で肺癌を含め呼吸器腫瘍という学問領域が大きな変革と進歩を遂げたことは誰もが認めることであろう.私が呼吸器の専門研修を開始し,初めて参加した平成元年の肺癌学会では,進行肺癌患者さんの化学療法の治療成績に関する演題発表の際に質問者が「進行癌がん患者さんを抗癌剤で治療することに何の意義があるのか?」との質問がよく会場からよくなされていた.当時,私が担当させていただいた患者さんは副作用に苦しみながらもほとんどの患者さんが治療を希望されていたので,私には大変に驚いた場面であり,鮮明に私の記憶に残っている.平成7年(1995年)に進行肺癌に対してプラチナを含む化学療法の有用性がメタ解析によって証明された(BMJ:1995).それ以降,学会で前述のような質問がなされることはなくなった.さらにその後,G-CSF製剤や優れた制吐剤が開発され支持療法が充実するとともに使用可能となり,肺癌化学療法が科学的根拠にもとづいた用法,用量で投与されるようになった.平成14年(2002年)にゲフィチニブが手術不能又は再発非小細胞肺癌を対象として世界に先駆けて日本で承認された.平成23年(2011年)には,適応がEGFR遺伝子変異陽性の手術不能又は再発非小細胞肺癌に変更され,コンパニオンパウンド診断薬と分子標的治療薬が次々に開発,承認されるようになった.そして,平成27年(2015年)末にはニボルマブ(オプジーボ)が承認され,免疫チェックポイント阻害薬の時代に突入した. 「令和」の時代は我々が手にした有用な治療薬・支持療法薬を適正に使用する方法を明らかにするとともに,さらなる生存期間の延長を目指すことになるであろう.本号に掲載されている内容は,放射線化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせによる局所進行肺癌の治療戦略,適正治療のために最も重要となる病理検体の取り扱いについての総説に始まり,免疫チェックポイント阻害薬の使用の際に多職種,多診療科で対応が求められる自己免疫関連有害事象の研究,といった新しい時代の訪れを象徴するような論文である. 症例報告はいずれも重要な視点から症例をとらえて考察がなされており,すべていずれも大変興味深い.本誌へ投稿いただいた著者の皆様,また投稿論文の査読を行っていただいた査読者,ならびに編集委員の皆様に深謝申し上げ,平成最後の編集後記とさせていただく.

肺癌 59 (2):216─216,2019

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