タイトル
第61巻第5号目次 In Japanese

─ 編集後記 ─

編集後記

田中 文啓
産業医科大学第2外科

2019年に中国武漢から全世界に広がった新型コロナウイルス感染症は,社会全体に深刻な影を落としています.本原稿執筆時点では第5波がようやく落ち着き緊急事態宣言も解除されましたが,寒波の到来と年末年始の人流増加等による第6波への備えに腐心されている医療関係者の方も多いと思います.さて報道によりますと,「昨年度にがん検診を受けた人は約2割減少し,治療を受ける人も減少傾向にある」とのことです.このため,コロナ禍に伴う検診・受診控えが中長期的にがんの進行や死亡の増加につながる恐れが懸念されています.特に我が国のがん死亡原因の第一位である肺癌はコロナ禍の影響を強く受ける可能性があるため,検診による早期発見をより推進するとともに,進行例に対するよりよき治療法の開発が求められています.本号では,過去30年間治療成績の進歩がなかった進展型小細胞癌への薬物療法の進歩(津端先生による総説),肺癌薬物治療に革新をもたらしたドライバー変異陽性例に対するキナーゼ阻害剤の進歩と課題(市原先生による総説),新規ドライバー変異であるMET遺伝子エクソン14スキッピング異常の検査の手引き(谷田部先生による委員会報告),が掲載されており最新のエビデンスがコンパクトにまとめられています.また,2編の原著(局所進行肺癌に対する放射線化学療法の効果,乳癌患者に出現した肺結節の切除例の検討)はいずれも日常臨床で遭遇することの多い症例の単施設での治療成績の詳細な検討であり,貴重な“real-world”データと言えると思います.また症例報告は希少な症例を紙面上で体験できる貴重な機会であり,実臨床でこのような症例に遭遇した際の参考として極めて有用です.本号に収められた貴重な論文が,コロナ禍の厳しい中で肺癌診療に従事しておられる医療関係者の役に立つことを祈念します.

肺癌 61 (5):462─462,2021

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