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Article in Japanese

症 例

糖尿病とアルコール性肝硬変を基礎疾患とした肺シュードアレシェリア症の1例

斉藤 好信1), 三上 正志1), 中村 清一1), 橋本 紀子1), 安部 康夫1), 馬場 美智子1), 滝沢 潤1), 川上 雅彦1), 亀井 克彦2)

〒150-0013 東京都渋谷区恵比寿2-34-10
1)都立広尾病院呼吸器科
2)千葉大学真菌医学研究センター

要 旨

肺結核の既往があり,糖尿病,アルコール性肝硬変を有する62歳の男性が,平成8年9月中旬より微熱,咳嗽,喀痰,血痰が出現し,同年10月15日に喀血し入院した.X線学的に右上中肺野の濃い浸潤影と肺結核遺残空洞及びその内腔に菌球を思わせる結節影を認め,気管支鏡で右上葉支からの出血を確認した.喀痰や気管支洗浄液から糸状菌が検出され,Pseudallescheria boydiiと同定された.miconazole400mg/日の投与により,投与4日目以降の喀痰培養及び29日目の気管支洗浄液の培養から菌は消失した.胸部CT上菌球様構造物も消退したため,miconazoleの投与は2カ月間で終了した.その後も喀痰から菌は検出されず,順調に経過した.本症例における感染と喀血には,糖尿病と栄養障害による免疫能低下とアルコール性肝硬変による血液凝固能低下が関与したものと考えられる.肺シュードアレシェリア症の報告は少なく,貴重な症例と考えられる.

キーワード:肺シュードアレシェリア症, 喀血, 糖尿病, アルコール性肝硬変, ミコナゾール

受付日:平成9年11月6日

日呼吸会誌, 36(5): 498-502, 1998