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Article in Japanese

原著

急性呼吸不全を呈した臭化ジスチグミンによるコリン作動性クリーゼ症例に関する検討

高橋 美琴, 生方 智, 佐藤 栄三郎, 庄司 淳, 森川 直人, 渡辺 洋, 高橋 洋

〒985-8506 宮城県塩釜市錦町16-5
宮城厚生協会坂総合病院呼吸器科

要 旨

コリン作動性クリーゼは臭化ジスチグミン服用例において稀に発症する特殊な副作用であり,流涎や縮瞳,徐脈などの副交感神経刺激症状が主体となるが重症例では稀ならず呼吸不全を随伴する.我々は2004年以降コリン作動性クリーゼ症例を5例経験したがいずれも急性呼吸不全を併発しており高齢者の誤嚥性肺炎などとの鑑別が問題となった.本邦報告例のうち急性呼吸不全を随伴した28症例の臨床像を検討したところ,多くはII型呼吸不全を呈しており,急性期の肺炎併発率は46%,人工呼吸器装着率は57%と高率だったが,診断後は大部分の症例が比較的短期間で抜管できていた.ただし初回発症時は確診に至らず,再燃時にはじめて診断に至った症例も20%近く認められた.本症はその可能性に気づきさえすれば診断,治療とも比較的容易であるため,高齢者肺炎や誤嚥性肺炎症例を取り扱う頻度が高い呼吸器科医にとっては注意すべき病態と考えられる.

キーワード:コリン作動性クリーゼ, 臭化ジスチグミン, 急性呼吸不全, 血清コリンエステラーゼ活性, 硫酸アトロピン

受付日:平成23年4月4日

日呼吸会誌, 49(12): 877-884, 2011