日本呼吸器学会雑誌 ONLINE JOURNAL

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Article in Japanese

症例

経気管支肺生検が診断に有用であったTS-1による薬剤性肺障害の1例

伊藤 俊輔1), 山口 朋禎1), 森末 遼1), 小川 ゆかり1), 宗像 一雄1), 福田 悠2)

〒211-8533 神奈川県川崎市中原区小杉町1-396
1)日本医科大学武蔵小杉病院内科
〒113-8602 東京都文京区千駄木1-1-5
2)日本医科大学解析人体病理学

要 旨

症例は67歳男性.2010年5月,胃癌stageIVと診断され,TS-1,PAC,レンチナン(lentinan)による外来化学療法施行中であった.2010年11月の投与後より呼吸困難,咳嗽が出現,低酸素血症と右中下肺野にスリガラス陰影認め第5病日に入院した.感染症や癌性リンパ管症などを鑑別するために,同日気管支鏡検査を施行した.TBLB所見から薬剤性肺障害が示唆され,薬剤リンパ球刺激試験(Drug lymphocyte stimulation test:DLST)はTS-1のみ強陽性であった.TS-1の中止のみで呼吸状態安定し画像所見も改善を認めた.TS-1は本邦のみで使用可能な薬剤で,毒性が軽微かつ経口薬のため,各種悪性疾患の治療薬として適応が拡大している.TS-1による薬剤性肺障害は全投与患者の0.03%と稀であり,その病理組織学的所見を得た報告は少ない.薬剤性肺障害は様々な画像所見を呈し,診断に苦慮する場合が多いが,本例のように,気管支鏡検査を早期に積極的に行い診断および治療方針を決定することが重要であると考えた.

キーワード:TS-1, 薬剤性肺障害, 経気管支肺生検

受付日:平成23年4月25日

日呼吸会誌, 49(12): 949-954, 2011