日本呼吸器学会雑誌 ONLINE JOURNAL

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Article in Japanese

症例

生前診断した原発性悪性心膜中皮腫の1剖検例

樹神 元博1), 舘野 博喜1), 田坂 定智1), 副島 研造1), 浅野 浩一郎1), 林 雄一郎2)

〒160-8582 東京都新宿区信濃町35
1)慶應義塾大学医学部呼吸器内科
2)同 病理診断部

要 旨

症例は40歳男性.石綿曝露歴なし.1カ月前からの労作時呼吸困難を主訴に近医を受診.胸部X線および心臓超音波検査で心嚢液の貯留を認め,心タンポナーデの状態であったため,心嚢ドレナージを施行された.心嚢液細胞診にて心膜中皮腫が疑われ,精査目的に当院に転院した.心膜生検,心膜開窓術を施行し,悪性心膜中皮腫(二相型)と診断した.ペメトレキセド(pemetrexed)とシスプラチン(cisplatin)の併用化学療法を行うも効果なく,収縮性心膜炎による心不全が進行し,症状出現から約3カ月の経過で永眠した.病理解剖では心嚢腔にびまん性に腫瘍を認め,その他,肺動脈血栓塞栓と出血性肺梗塞を認めた.心膜中皮腫は生前診断が困難なうえに心タンポナーデなどの重篤な合併症を伴いやすく,いまだに有効な治療法は確立されておらず予後不良である.本例は生前診断され,ペメトレキセドと白金製剤による化学療法を施行した貴重な症例と思われ報告する.

キーワード:悪性心膜中皮腫, ペメトレキセド, 心膜開窓術

受付日:平成23年5月2日

日呼吸会誌, 49(12): 964-969, 2011