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日本臨床微生物学会雑誌
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書誌情報
論文名 |
バンコマイシン耐性腸球菌 |
論文言語 |
J |
著者名 |
富田 治芳1,2), 野村 隆浩1), 久留島 潤1), 谷本 弘一2) |
所属 |
1)群馬大学大学院医学系研究科細菌学分野
2)群馬大学大学院医学系研究科附属薬剤耐性菌実験施設 |
発行 |
臨床微生物:24(3),180─194,2014 |
受付 |
平成26年7月31日 |
受理 |
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要旨 |
バンコマイシン(グリコペプチド系抗菌薬)はβ-ラクタム剤耐性のグラム陽性菌,特にMRSAの治療薬として用いられている。現在,主な高度バンコマイシン耐性菌はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)であり,特に欧米においては多剤耐性VREの急速な増加と蔓延が深刻な問題となっている。腸球菌は典型的な日和見感染菌であるが,重度易感染者のVRE敗血症(菌血症)では治療不可能なことが起こり得る。臨床で問題となる菌種は主にE. faecium,E. faecalisであり,耐性遺伝子型ではVanA型が最も多く,次にVanB型が分離される。それら獲得性の耐性遺伝子はグリコペプチド系抗菌薬産生放線菌を起源とし,伝達性プラスミドや伝達性トランスポゾンなどの遺伝子伝達機構(転移因子)によって菌間に伝播,拡散し,耐性菌が生じた。VREはグリコペプチド系抗菌薬の多用により選択的に増加し,環境中に急速に拡がった。医療環境だけでなく,グリコペプチド系薬剤を家畜の肥育目的に使用した国々では家畜環境においてもVREが増加し,畜産物(食肉)を介してヒトに伝播したと考えられている。我が国においては,欧米諸国,近隣諸国に比べVREの分離頻度は低いが,現在は全国的にVREによる院内感染症や保菌者が増加しつつある。腸球菌は腸管内に定着しやすい菌であるため,病院内外においてVRE感染者や保菌者から汚染物を介した経口感染によってVRE保菌者が潜在的に拡大する危険性がある。国内でVREによる感染症が発生した際には感染症法に基づき5類感染症として行政に届け出る義務がある。また病院環境を含めた院内スクリーニング検査によるVREの拡散と汚染状況の把握,および感染者や保菌者との接触感染予防策の徹底が重要である。 |
Keywords |
VRE, 多剤耐性菌, 院内感染症, 遺伝子伝達機構, 5類感染症 |
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