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日本臨床微生物学会雑誌

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Article in Japanese

論文名 当院の呼吸器検体から検出された糸状菌の菌種同定およびAspergillus fumigatusの分子疫学解析
論文言語 J
著者名 下坂 寿希1), 林 悠太2), 梅山 隆3), 泉 敦1), 木下 均1), 中村 茂樹3), 中山 靖子3), 壇辻 百合香3), 宮﨑 義継3), 小川 賢二2)
所属 1)独立行政法人国立病院機構東名古屋病院臨床検査科
2)独立行政法人国立病院機構東名古屋病院呼吸器内科
3)国立感染症研究所真菌部
発行 臨床微生物:28(3),183─191,2018
受付 平成29年6月30日
受理 平成29年12月25日
要旨  当院では喀痰などの呼吸器検体からの糸状菌検出件数が多く,特定の場所に汚染源がないか調査する必要があると考えられた。本研究は2015年5月から11月までの7ヶ月間に当院の細菌検査室にて分離同定された糸状菌59株についてITS,D1/D2領域,必要に応じてβチューブリン遺伝子の塩基配列解析により菌種同定し,さらにAspergillus fumigatusについてはMLST(multilocus sequence typing)法を用いたジェノタイピングを行い,臨床情報と合わせて調査した。対象59株の遺伝子検査を加えた同定結果はA. fumigatusが33株(55.9%),Aspergillus nigerが10株(16.9%),Aspergillus tubingensisA. nigerの隠蔽種)が5株(8.5%),Aspergillus flavusが2株(3.4%),Neosartorya hiratsukaeA. fumigatusの隠蔽種),Emericella quadrilineataAspergillus nidulansの隠蔽種)がそれぞれ1株ずつ(1.7%),Aspergillus属以外の糸状菌が7株(11.9%)でその内訳はTrichoderma longibrachiatumExophiala dermatitidisPaecilomyces variotiiParenniporia tephroporaTrametes sp. が1株ずつ,Lecythophora hoffmanniiが2株であった。  A. fumigatusのST(sequence type)は既知の10種類と新規に見つけられた5種類を合わせて15種類が検出された。今回のMLST解析においては多数のクローンが分離されており,同一STであった株の検体採取時期・場所,臨床情報に共通性は見いだせず,特定の汚染源由来とは考えにくかった。当院の呼吸器検体からの糸状菌検出件数が多い理由として考えられたのは,対象患者が多いこと,真菌培養時に検体を専用培地に多量に塗るなどの工夫をしていることに加え,臨床において医師の糸状菌培養に対する意識が高いことなどに起因するものと考えられた。
Keywords Aspergillus fumigatus, MLST, respiratory tract specimens, chronic pulmonary aspergillosis
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