学会誌

日本臨床微生物学会雑誌

書誌情報


download PDF Full Text of PDF (928K)
Article in Japanese

論文名 腸チフス・パラチフス
論文言語 J
著者名 渡邊 浩
所属 久留米大学医学部感染制御学講座
発行 臨床微生物:29(3),135─139,2019
受付 平成31年4月19日
受理
要旨  腸チフスはチフス菌(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Typhi),パラチフスはパラチフスA菌(Salmonella enterica subsp. enterica serovar Paratyphi A)に汚染された食品,水などの摂取が原因となって起こる全身性感染症である。日本国内での年間報告数は腸チフスが30~60例,パラチフスが20~30例程度であり,80~90%程度は流行地からの輸入感染症である。2014年には都内飲食店を原因とする腸チフス食中毒が発生しており,2019年には南アジアより帰国後腸チフスを発症後に死亡した症例が報告されている。腸チフスとパラチフスの症状はほぼ同じであるが,一般に,腸チフスに比べてパラチフスの症状の方が軽症とされている。潜伏期間は通常1~3週間であり,比較的徐脈,バラ疹,脾腫が三主徴とされるが,菌血症による発熱が主症状となる。下痢を伴わないことも多く,便秘となる例もある。重篤な合併症として腸出血や腸穿孔があり注意を要する。治療はこれまでニューキノロン系薬が用いられることが多かったが,近年耐性菌が増加傾向であり,最近はceftriaxoneやazithromycinなどが選択される場合も少なくない。腸チフスに対するワクチンには海外では経口生ワクチンと不活化ワクチンが用いられているが,国内では未承認である。しかし,近年国内でも輸入ワクチンを使用しているトラベルクリニックが増加してきており,流行地への渡航者には積極的なワクチン接種が推奨される。
Keywords 腸チフス, パラチフス, ワクチン, トラベルクリニック
Copyright © 2002 日本臨床微生物学会 All rights reserved.