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日本臨床微生物学会雑誌

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Article in Japanese

論文名 バイトブロックを介したと推定された緑膿菌の院内伝播事例
論文言語 J
著者名 宇賀神 和久1), 富樫 真弓1), 田澤 節子1), 丸茂 健治2), 田口 和三2), 山中 美恵3), 菊池 敏樹4), 長島 梧郎5), 田中 広紀6)
所属 1)昭和大学藤が丘病院中央臨床検査部
2)同 臨床病理科
3)同 看護部
4)同 呼吸器内科
5)同 脳神経外科
6)同 薬剤部
発行 臨床微生物:17(4),277─283,2007
受付 平成18年10月17日
受理 平成19年8月20日
要旨  平成16年7月中の1カ月間に昭和大学藤が丘病院集中治療室(ICU)で緑膿菌が分離された患者20名が確認され,この人数が前月までの週別緑膿菌分離患者数(平均値+2x標準偏差=1.6+2.2名)よりも高値を示したため,緑膿菌のアウトブレイクが疑われた(当院では2SDを超えた場合にアウトブレイクを疑う)。検査材料の多くは呼吸器系由来であった(気管吸引痰,14名;胃液,1名;便,4名;腹腔内ドレーン,1名)。なお提出された気管吸引痰は監視培養が目的で提出されたものであった。薬剤感受性検査を実施した患者10名中7名からの緑膿菌はイミペネム,シプロフロキサシンに耐性,残り3名からのものはこれら2薬剤に感受性であった。また,経口気管内挿管が行われていた9名は全員バイトブロックを使用していた。当院では塩素消毒後のバイトブロックを共用していたことから,これを介した緑膿菌汚染を第一に疑い(オッズ比7.6;95%信頼区間2.37~24.62),消毒が不十分であったという仮定のもとでこれら患者使用後の塩素消毒済みバイトブロックから細菌培養を試みた(個々のバイトブロックは不特定患者に使用していたため,前回使用患者歴および消毒実施日は不明)。消毒済みバイトブロック6個中4個から緑膿菌5株(うち1株は感受性パターンが異なった)検出された。分離された緑膿菌の遺伝子解析は,各染色体DNAを制限酵素SpeIで断片化し,パルスフィールドゲル電気泳動法を用いた。バイトブロック使用患者9名からの緑膿菌の遺伝子解析では,2種類の遺伝子型(A型7名,B型2名)を示し,先のバイトブロックからのもの(A型3株,B型1株)と同じ遺伝子型を示した。このことから,ICU内でのバイトブロックを介した緑膿菌の交差汚染が疑われた。緑膿菌拡散防止策として,医療スタッフによる標準予防策の遵守とバイトブロックのディスポーザブル化を行った結果,ICUでの緑膿菌分離患者数は7月には20名であったが10月には5名に減少した。本事例は,院内感染サーベイランスと感染制御活動の迅速な対応で効果があったことを示唆した。
Keywords 緑膿菌, 集中治療室(ICU), アウトブレイク, バイトブロック, 交差汚染
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