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日本臨床微生物学会雑誌

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Article in Japanese

論文名 成人の入院肺炎例より分離されたニューキノロン系薬耐性を含む多剤耐性インフルエンザ菌の遺伝子解析
論文言語 J
著者名 野老 洋夫1), 岸井 こずゑ3), 木村 望1), 小浦 彩子1), 鈴木 葉子2), 生方 公子3)
所属 1)東京女子医科大学東医療センター 検査科
2)東京女子医科大学東医療センター 小児科
3)北里大学北里生命科学研究所&大学院感染制御科学府 病原微生物分子疫学研究室
発行 臨床微生物:21(2),121─128,2011
受付 平成22年11月7日
受理 平成23年1月26日
要旨  肺炎と診断され,入院となった71歳(症例1)と73歳(症例2)の2名の喀痰培養から,β-ラクタム系薬とニューキノロン系薬に明らかな耐性を示すHaemophilus influenzaeを分離した。2名が同一の看護チームでケアされていたことや,経験したことのない多剤耐性菌であったことから,院内伝播の可能性を疑った。この2株について薬剤感受性,薬剤耐性遺伝子解析,およびPulsed-field gel electrophoresis(PFGE)による菌株の相同性解析を行った。2株ともampicillin: >64 μg/ml,sulbactam/ampicillin: 1/2 μg/ml,amoxicillin: >64 μg/ml,cefditoren: 8 μg/ml,cefotaxime: 32 μg/ml,ceftoriaxone: 8 μg/ml,meropenem: 0.25 μg/ml,ciprofloxacin: 16 μg/ml,およびlevofloxacin: 8 μg/mlと明らかな耐性を示した。2株はTEM型β-ラクタマーゼ遺伝子を保持,さらにPBP3をコードするftsI遺伝子の2カ所に変異が認められ,Ser385ThrとArg517Hisのアミノ酸置換を有していた。この結果から,分離菌はβ-lactamase-producing, amoxicillin clavulanic acid resistance(gBLPACR-II)と判定された。ニューキノロン薬耐性では,DNAジャイレースのGyrAのアミノ酸置換(Ser84PheとAsp88Asn),トポイソメラーゼIVのParCのアミノ酸置換(Glu88Lys),ParEのアミノ酸置換(Ala369ThrとSer458Ala)が認められた。制限酵素SmaIを用いたPFGEでは,2株が同一クローン株であることが示唆された。今までに経験したことのない多剤耐性菌であったために,2例目の菌分離(1週間後)を確認した時点で院内伝播を疑い,インフェクションコントロールチームの迅速な対応が可能であった。その後,同様の耐性菌は分離されずに終息した。今後,市中からの持ち込みと思われるこのような耐性菌にも配慮した院内感染対策が必要と結論された。
Keywords Haemophilus influenzae, キノロン薬耐性, gyrA, parC, BLPACR-II, 院内感染
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