von Willebrand病（VWD）は1・2・3型に分類され，1型VWDは妊娠に伴いvon Willebrand因子（VWF）と第VIII因子活性が増加するため分娩産褥時における異常出血リスクは少ないと言われているが報告例は少ない．今回異常出血を来した1型VWD合併妊娠2症例を経験したのでその4分娩を報告する．
　症例1：26歳未経妊未経産．妹もVWD（型別不詳）．初回妊娠時に1型VWDと診断．VWF抗原量（VWF：Ag）は正常，リストセチン・コファクター活性（VWF：RCo）は25週で27％と低値であったが38週で64％と正常化し正常分娩．分娩時出血量380 ml. 2回目妊娠時もVWF：RCoは12週で36％と低値であったが37週で60％と正常化し正常分娩．分娩時出血量530 ml．子宮収縮不良で子宮腔内にバルーンを挿入したが分娩16時間後の抜去までの総出血量1,825 mlと多量であった．2分娩ともVWF補充療法施行なし．
　症例2：34歳未経妊未経産．12歳時に1型VWDと診断．初回妊娠時，7週でVWF：RCoは32％, VWF：Agは47％と低値であったがVWF：RCoは23週で65％, VWF：Agは17週で97％と正常化．児頭骨盤不均衡で全身麻酔下に帝王切開で分娩．術中出血量1,360 mlと多めであったが産科的・外科的要因なし．2回目妊娠時，初期よりVWF：RCoとVWF：Agは正常．34週に切迫早産で入院．原因不明の出血持続で35週に腰椎麻酔下に帝王切開で分娩．術中出血量490 ml. 2分娩ともVWF補充療法施行なし．
　今回4分娩中3分娩でVWF測定値は異常なく産科的・外科的に説明困難な異常出血を認め，現在のVWF活性評価法は不十分である可能性が示唆された．