腹膜偽粘液腫は粘液産生腫瘍の破綻ないしは腹膜播種により腹腔内にゼリー状の粘液が広範囲に貯留する病態である.原発巣の多くは虫垂で,卵巣原発例は稀である.今回当院で経験した卵巣原発腹膜偽粘液腫の2例を報告する.
症例1は65歳,腹部膨満感を主訴に来院し,30 cmの右卵巣腫瘍と大量腹水を認めた.手術所見は右付属器の多房性嚢胞性腫瘍が自然破綻を来たし,腹腔内に多量の粘液貯留と腹膜播種巣を認めた.病理組織診断は成熟嚢胞性奇形腫を伴う卵巣粘液性境界悪性腫瘍で,虫垂に腫瘍性病変を認めなかった.術後3年5か月再発を認めていない.症例2は52歳,乳癌術前に左卵巣腫瘍と腹水貯留を指摘された.手術所見は左付属器に粘液性の多房性嚢胞性腫瘍を認め,骨盤腹膜に粘液が付着し腹膜偽粘液腫であった.病理組織診断は卵巣粘液性腺癌と甲状腺性カルチノイドで,虫垂に腫瘍性病変を認めなかった.卵巣癌に対し化学療法を施行し,術後3年再発なく経過している.
当院では過去10年間で腹膜偽粘液腫を5例経験し,卵巣原発2例,虫垂原発3例であった.卵巣原発腹膜偽粘液腫は奇形腫を基盤に発生し,予後良好であるという報告が多い.腹膜偽粘液腫を呈する卵巣腫瘍では,原発を特定し悪性度を評価するうえで,虫垂,粘液産生が旺盛な腹膜の組織学的検索と奇形腫の有無を確認することが重要である.
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