乳び腹水は,婦人科悪性腫瘍に対するリンパ節郭清術後に生じる比較的稀な合併症である.一般的には,乳び腹水は腸間膜リンパ節,乳び槽,胸管への損傷で生じるが,婦人科悪性腫瘍手術後に発生する乳び腹水は,傍大動脈リンパ節郭清により,腎静脈以下のリンパ節・リンパ管が摘出されるため,本来乳び槽に流入すべき消化管由来のリンパ液が逆流して損傷したリンパ管から腹腔内に漏出することで生じる.乳び腹水が遷延すると,腹腔内にたんぱく質やリンパ球が漏出し栄養不良や免疫力低下を引き起こし,全身状態が不良となるため迅速な対応が必要である.今回我々は,卵巣癌リンパ節郭清術後に6か月以上持続する難治性乳び腹水の一例を経験した.症例は40歳,2経妊0経産,卵巣癌に対して,傍大動脈リンパ節郭清術を施行,術後乳び腹水を発症した.複数回の禁飲食やオクトレオチド投与を繰り返すも著効せず,初回治療より6か月以上を経過し,全身状態の悪化を懸念したため外科的治療へ移行した.漏出部位の同定目的で,術前にイレウス管を挿入し,術中に牛乳を注入したところ左腎静脈前面から乳びの漏出を認め,同部位の結紮・フィブリン糊の散布により乳び腹水は軽快した.ほとんどの症例は禁飲食による保存的治療で改善が認められるが,稀に長期にわたる難治性乳び腹水の症例があり,その場合には外科的治療を積極的に検討する必要があるが,リンパ節郭清時にはリンパ管の中枢側を確実に結紮することが肝要である.
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