子宮内膜症は生殖年齢の女性の5~10%に発症し1),月経困難症や不妊などの症状を引き起こす.子宮内膜症の中には,腸管,膀胱,臍部,胸膜,肺など,内性器以外に発生するものがある.今回我々は妊娠中に急性腹症を生じ,帝王切開時に腸管子宮内膜症による小腸穿孔を認めた一例を経験した.症例は31歳の初妊婦.月経困難症および卵巣子宮内膜症性囊胞に対し低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)による治療歴がある.28歳で結婚し,31歳時自然妊娠に至った.妊娠33週2日に嘔気・下腹部痛を呈し小腸イレウスの診断で保存的治療を行った.妊娠34週0日に全身状態が増悪したので当院に母体搬送され,緊急帝王切開術が施行した.小腸に穿孔部位を認め,帝王切開術を遂行したのち小腸部分切除術を施行した.摘出した小腸の病理組織診断により,腸管子宮内膜症による小腸穿孔の診断に至った.本症例のように,腸管子宮内膜症の中でも粘膜面に病変のないものは臨床症状に乏しく術前診断は困難である.妊娠中に腸管穿孔を起こす病態生理学的背景として,プロゲステロンの分泌増加により子宮内膜症病変の脱落膜化がおこり,腸管壁が脆弱化したことが考えられる.妊娠中の急性腹症においては腸管子宮内膜症に伴う消化管穿孔の可能性も考慮し,他科と連携した治療にあたる必要がある.
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