先天性アンチトロンビン(antithrombin III:AT)欠乏症は,ATの活性低下に起因する先天性血液凝固異常症であり,静脈血栓塞栓症を発症するリスクが高い.今回,先天性AT欠乏症合併妊娠の2例を経験したので報告する.
症例1は33歳,1妊0産,15歳から深部静脈血栓症(Deep Venous Thrombosis;DVT)を繰り返し,AT欠乏症の診断にて抗血小板薬を内服していた.家族歴はなかった.妊娠8週にて血栓既往のため当院紹介,左腓腹筋下部に疼痛・腫脹あり,下肢超音波検査で左総大腿静脈以下に血栓を認め,さらにAT活性の低下を認めた.抗凝固療法とAT剤の補充を開始・継続した.37週に誘発分娩で正常分娩となった.症例2は29歳,1妊0産,妊娠15週に右下肢の疼痛を認めDVT疑いで当院へ搬送.来院時,AT活性低下,D-dimer上昇,下肢超音波検査で両下肢のDVTを認め,AT欠乏症の診断にて抗凝固療法とAT製剤の補充を開始した.家族歴は父親がDVT・PE発症歴あり,祖父に脳梗塞の既往があった.妊娠32週5日に痙攣を認め,頭部CT施行し,左硬膜下血腫を認め,緊急帝王切開術を施行した.
先天性AT欠乏症合併妊娠は厳格な抗凝固療法と頻回のAT製剤補充により,母児共に合併症なく出産を終えることを目標とする必要がある.また,抗凝固療法には出血性合併症のリスクがあり,適切な薬剤コントロールに加え,異常の早期発見が重要である.
〒102-0083
東京都千代田区麹町4-7
麹町パークサイドビル402
(株)MAコンベンションコンサルティング内
E-mail:kantorengo@jsog-k.jp