Aeromonas属はグラム陰性の通性嫌気性菌で,汚染された水や食品などを通じた旅行者下痢症の原因菌として知られている.一方で腸管外感染症の原因ともなり,悪性腫瘍など基礎疾患のある患者に時として非常に重篤な壊死性筋膜炎や筋壊死を起こすことがある.今回,子宮内膜症性卵巣囊胞に併発した卵管卵巣膿瘍(tubo-ovarian abcess;TOA)症例で,危機的状況から救命し得たAeromonas sobria感染による一例を経験したので報告する.症例は48歳女性,0妊0産.左子宮内膜症性卵巣囊胞のため内服治療を受けていたが3年前より自己中断していた.数日前から腹痛と39℃の発熱を訴え救急外来を受診し,子宮内膜症性卵巣囊胞を画像診断するも,症状から細菌性腸炎の診断で入院管理となった.しかし,入院3日目にTOAによる敗血症性ショックを呈し,緊急開腹手術を施行した.緊急開腹手術では茶色の腹水貯留,左付属器と子宮後面,腹壁と大網の一部,右付属器周囲に癒着があり,両側付属器切除し,腹腔内洗浄を行いダグラス窩にドレーン留置した.術後も循環動態安定しなかったが,集中治療によって救命し得た.入院時血液培養からA. sobriaが検出され,付属器膿瘍からも同菌が検出された.後の病歴聴取で,直前に東南アジア渡航歴があることも判明した.A. sobriaのTOA症例としての報告は我々が調べ得た範囲では本症例が本邦第1例目である.TOA症例に対して基本的な加療をおこなうも劇症化の経過を辿る場合は,その感染経路,起因菌を早急に特定することが,その後の治療に大きな影響を与える.そのため,婦人科領域ではまだ認知度が低いAeromonas属菌が,渡航歴を含む問診から着想できるかが鍵であり,子宮内膜症性卵巣囊胞は感染培地になると重篤化することに注意が必要である.
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