脊髄くも膜下麻酔の合併症に脳脊髄液減少症における症状の一つである硬膜穿刺後頭痛(postdural puncture headache:PDPH)がある.この頭痛は,髄液漏出に伴う低髄液圧による架橋静脈やその他痛覚神経を含む組織の牽引が原因とされている.また,低髄液圧が急激に生じることで架橋静脈が破綻し,頭蓋内急性硬膜下血腫(intracranial subdural hematoma:ICSH)を形成することがある.
今回我々は,脊髄くも膜下麻酔後にPDPHを発症しICSHを認めた1例を経験したので報告する.
症例は33歳1妊0産,片頭痛の既往があり妊娠中も症状が継続していた.妊娠23週より高血圧を認め,妊娠高血圧の診断となった.降圧剤内服で血圧は非重症域で推移した.妊娠32週,倦怠感と血圧上昇(163/121 mmHg)のため緊急入院した.入院後血圧は安定し,母体臓器や胎児発育およびwell beingに問題なく,降圧剤内服で入院管理を継続した.妊娠37週に妊娠高血圧治療目的の分娩誘発時に血圧が重症域へ上昇したため,脊髄くも膜下麻酔で緊急帝王切開術を行った.術後,座位で増悪する前頭部中心の頭痛を訴え,片頭痛やPDPHを疑った.術後3日目に頭痛が増悪したため,頭部CT検査を施行したところ両側前頭部にICSHを認めた.血腫は小さく,神経症状は認めないため保存的加療とした.術後10日目には血腫は縮小し,術後16日目に後遺症なく退院した.脊髄くも膜下麻酔後に頭痛の遷延や増悪,体位変換に影響されない頭痛を認めた場合はICSHを疑い,CT検査やMRI検査の実施を考慮すべきである.
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