多発性硬化症(以下MS)は20歳代の女性に好発する.MS合併妊娠は比較的頻度は高く,産婦人科医もその病態の理解を深める必要がある.妊娠中の治療は胎児へ影響もあり確立した治療方法はない.よって妊娠中の再発予防に高活動性患者への妊娠許可は妊娠前1年程度の寛解期維持が求められている.この際に使用される薬剤は免疫抑制剤のグラチラマー酢酸塩(以下GA)が最も安全であり,MS合併妊婦に使用されている.今回GAに対するnon-responderで二度の妊娠でいずれも妊娠中に再発を認めたが母児ともに無事に経過したMS合併妊娠の一例を経験したので報告する.
症例は今回妊娠時29歳,2妊1産.23歳時にMSを発症した.第1回妊娠は催奇形性のある寛解維持薬のフィンゴリモド塩酸塩(以下FH)を内服中に自然妊娠し,妊娠6週に同薬を中止,妊娠18週にMSを再発し,ステロイドパルス療法(以下SP療法)を施行し軽快,その後は無投薬で経過し妊娠39週4日に正常経腟分娩となった.第2回(今回)妊娠は,FHで1年間の寛解を維持し,挙児希望によりGAへ変更したが無効であり1か月でMSを再発した.SP療法を施行した所,妊娠5週と判明した.妊娠16週にMSの再々発を認め,再度SP療法を施行し軽快,その後は無投薬で順調に経過し妊娠40週1日に正常経腟分娩となった.
今回提示する症例の経過は,妊娠中の第一選択とされているGAが無効な場合の臨床対応についての重要な情報提供となると考えられる.
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