羊水塞栓症(AFE)発症前後の凝固異常の進行過程を捉え得た一症例を経験した.39歳3妊2産.妊娠30週に羊水過多,胎児多発異常のため紹介受診した.妊娠31週に陣痛発来した.分娩2時間前は血小板28.8万/μl,フィブリノゲン461 mg/dlであった.臍帯脱出予防の目的で羊水除去を施行した.早期破水し間もなく母体に全身性の強直間代性痙攣を約10秒間認めた.直後に頭位経腟分娩に至った.分娩第3期までの出血は76 gで,分娩10分後に血小板7.7万/μl,フィブリノゲン214 mg/dlであった.分娩後約50分で意識障害及び非凝固性性器出血の持続からAFEを疑った.分娩1時間後フィブリノゲン40 mg/dl未満であり,濃厚赤血球(RBC),新鮮凍結血漿(FFP),濃厚血小板(PC),フィブリノゲン製剤を投与開始して腹式単純子宮全摘出術を施行した.子宮摘出後より術野で凝血塊が観察され始めた.当日の総出血量は4,518 gでRBC 16単位,FFP 26単位,PC 20単位の輸血,フィブリノゲン製剤9 gを投与した.その後母体は独歩退院した.STN値が高値でAFEに矛盾しない結果であった.偶然にもAFE発症によるフィブリノゲン消費の経過を捉え得た.AFEを疑った時点から輸血および補充療法を行い,子宮全摘出の適応を考慮する必要がある.また,フィブリノゲン製剤の使用が速やかな凝固機能の改善に寄与した可能性がある.
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