妊娠子宮嵌頓症は子宮が後屈したまま増大し,子宮底部が骨盤腔に陥入する状態である.経腟分娩は困難であり,子宮が嵌頓していることを認識せずに帝王切開を行うと膀胱損傷,腟壁裂傷をきたす.今回,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus,SLE)罹患女性へ妊娠子宮嵌頓症の診断で帝王切開術を施行したところ,子宮底部ではなく子宮憩室がダグラス窩に陥入していた症例を報告する.36歳の初産婦が妊娠11週でSLE合併妊娠の管理目的に当科へ紹介された.子宮は後屈で妊娠19週の内診で子宮腟部を確認することができず,経腟超音波で頸管の延長と内子宮口の頭側への偏位を認めた.妊娠30週のMRIで妊娠子宮嵌頓症と診断した.SLEの病勢が悪化し妊娠31週5日に緊急帝王切開術を施行した.子宮底部は小骨盤腔の頭側にあり,子宮右後壁の筋層が膨隆して子宮憩室を形成しダグラス窩に陥入していた.子宮を腹腔外へ挙上し体部の回転と頸部の過伸展を解除した後,体下部を横切開し児を娩出した.憩室の筋層は菲薄化し胎盤の癒着を認めたため,憩室壁を胎盤と共に切除した.組織学的には癒着胎盤であった.SLE合併妊娠では子宮筋層が脆弱となることがある.本例では妊娠中にSLEの病勢が悪化しており,胎盤付着部の子宮筋層が菲薄化し子宮憩室を形成した可能性が考えられた.
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