卵巣過剰刺激症候群(Ovarian Hyperstimulation Syndrome;OHSS)は排卵誘発に伴い卵巣腫大,腹水貯留,乏尿や血栓形成などを生じる重篤な合併症である.重症OHSSに伴う腹部コンパートメント症候群の発症が疑われ,頻回の腹水濾過濃縮再静注法CART(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy;CART)を施行し妊娠継続しえた一例を報告する.症例は29歳,0妊.原発性不妊のため,クエン酸クロミフェン及びhMGによる排卵誘発後にタイミング指導が行われた.トリガー投与10日後に多量腹水,卵巣腫大を認め重症OHSSと診断した.経過中に妊娠を確認し,妊娠4~5週にかけて腹水増加が著明となった.アルブミン製剤,低用量ドパミン,低用量ヒト心房ナトリウム利尿ペプチドの投与を行ったが尿量減少が顕著であった.22日間でCARTを計4回,腹水穿刺排液を計3回施行した.妊娠6週より腹水貯留が緩徐となり,妊娠を継続できた.腹水除去前後の尿量を比較すると,腹水除去前の尿量は平均15 ml/hであったが,腹水除去開始後3~6時間には平均115 ml/hと増加しており,腹水除去による減圧自体が尿量確保に寄与すると考えられた.重症OHSSにおいては過度な腹腔内圧上昇を避けることが循環動態の維持につながる可能性がある.
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