嵌頓子宮妊娠とは,妊娠中に子宮が過度に後屈したまま子宮が増大し,子宮底が小骨盤腔に嵌頓した状態と定義される.嵌頓子宮妊娠のリスク因子として子宮筋腫,骨盤内炎症性疾患既往や腹部手術既往,子宮内膜症による癒着などが報告されている.今回,嵌頓子宮妊娠のリスク因子を有さないが,術前に診断し,予定帝王切開で安全に生児を得た嵌頓子宮妊娠の症例を経験したので報告する.
症例は35歳1妊0産,既往歴・合併症なし.妊娠27週に全前置胎盤が疑われたため,当院へ紹介された.経腟超音波断層検査で子宮頸管の描出が困難で,子宮体部がダグラス窩に嵌頓していた.内診は子宮腟部を触知できなかった.以上の所見より嵌頓子宮妊娠を疑った.妊娠32週でMRI検査を実施し,嵌頓子宮妊娠と診断し,妊娠36週に予定帝王切開術を施行した.臍上まで延長した下腹部正中切開で開腹した.子宮体部は母体右側に90度ローテーションし,右の卵管子宮口部がダグラス窩に嵌頓していた.腹腔内癒着はなく,子宮筋腫や子宮奇形を認めなかった.子宮を正位へ整復し,子宮体部横切開で児を娩出した.嵌頓子宮妊娠は,術前診断がつかない状態で帝王切開を行うと,子宮頸管切断や膀胱損傷などの合併症の可能性が高くなる.過去の症例報告例を併せて検討すると本症例のように明確なリスク因子のない嵌頓子宮妊娠も存在するため,嵌頓子宮妊娠を疑う身体所見がある場合は,術前に綿密な評価を行い,帝王切開に臨むことが重要である.
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