卵巣動脈瘤はまれな病態であり,PubMedを用いて「卵巣動脈瘤」で1963年から2023年の期間で検索したところ症例報告が33件あるのみであった.一般的には周産期発症が多いとされており,卵巣動脈瘤が破裂した場合には後腹膜血腫を形成し,出血性ショックを呈することがある.
症例は63歳,4妊4産,既往歴,家族歴に特記事項はみられなかった.右側腹部痛,肩背部痛を主訴に前医を受診し,胸腹骨盤単純CTで右付属器周囲に出血が疑われ当院救急搬送された.来院時バイタルサインは血圧140/90 mmHg心拍数96回/分であった.身体所見は右側腹部に軽度圧痛があるのみで,反跳痛,熱感はなく背部叩打痛は認めなかった.経腟超音波検査では腹水,卵巣腫大,子宮内膜肥厚は明らかではなく,経腹超音波検査では腎盂拡大は認めなかった.胸腹骨盤造影CTでは,骨盤底から後腹膜にかけての血腫,脾動脈瘤,右卵巣動脈拡張が認められた.Dynamic CTでは右卵巣動脈の拡張と一部瘤化が認められたが明らかな造影剤の血管外漏出は確認できなかった.骨盤造影MRIを撮影すると動脈瘤血腫内部に右卵巣動脈の瘤状の拡張が認められた.これらの所見より卵巣動脈瘤破裂が疑われ,Interventional Radiology(IVR)治療を行った.IVR時の透視造影で右卵巣動脈に2か所の動脈瘤をみとめ,コイル塞栓を行った.術後経過は良好であり10日後に退院となった.1か月後の骨盤造影CTでは右卵巣動脈瘤は消失し,後腹膜血腫も消退傾向であった.その後は経過観察のため定期的に造影CTを撮影しており,術後3年経過しているが再発はみられていない.
本症例では身体所見,CT画像所見が乏しく診断に難渋した.卵巣動脈瘤破裂はまれな疾患であるが,妊娠・出産歴が多い症例や周産期発症では卵巣動脈瘤破裂を鑑別に入れ,CTだけでなくMRIによる検査が有用な可能性がある.
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