症例は,34歳の既往歴のない初産婦である.下腿浮腫と呼吸苦を主訴に当院救急搬送となった.血液検査でD-dimer上昇を認め,病歴から肺血栓塞栓症が疑われたが,来院時に施行した尿中妊娠反応検査が陽性であり,最終月経から妊娠5週と考えられた.検査や治療の必要性と,それに伴う胎児への影響を説明し了承を得た上で造影CT検査を施行した.造影CTでは肺動脈血栓と左総腸骨静脈から左ヒラメ筋静脈に連続した血栓像を認め,肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断となった.下大静脈フィルターを留置し,未分画ヘパリン持続静脈内投与を行った.子宮内に胎嚢を確認後,改めて挙児の希望を得たため妊娠継続した.D-dimer低下後,下大静脈フィルターを抜去し,外来でヘパリンカルシウムの自己皮下注を継続した.妊娠40週4日にオキシトシンで分娩誘発を行い,同日正常経腟分娩に至った.児は3,066 gの男児で明らかな外表奇形を認めなかった.妊娠は血栓症のリスクである.肺血栓塞栓症は,妊産婦死亡原因の上位を占め,また近年は妊娠初期症例での報告が増加している.文献上,妊娠初期に発症した肺血栓塞栓症症例を検討した結果,肥満,高齢,悪阻などの危険因子を複数有する症例が多かった.本症例では例外的に妊娠以外に明らかな血栓症の危険因子を認めなかった.
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