近年,遺伝性乳癌卵巣癌症候群女性に対するリスク低減卵巣卵管摘出術の検体の解析から,高悪性度漿液性癌は卵巣よりむしろ卵管上皮を起源とすると考えられている.正常卵管上皮に,複数の遺伝子異常が段階的に生じることで,Secretory cell outgrowth(SCOUT),p53 signature,Serous tubal intraepithelial carcinoma(STIC)の順に進展し,前駆病変であるSTICから高悪性度漿液性癌発生へ至るとされる.今回我々は,卵巣成熟囊胞性奇形腫のため付属器摘出した卵管に偶発的に併存した,SCOUTを認めたので報告する.
患者は44歳の2経産婦.既往歴・家族歴に特記事項はない.右卵巣腫瘍に対し腹腔鏡下右付属器摘出術を施行した.病理学的検査で卵巣成熟囊胞性奇形腫と診断され,さらに卵管上皮の一部に,分泌細胞のみが増殖,重層化した構造異型を呈する部分を認めた.免疫組織学的検査で,p53陽性像やMIB-1発現率増加を認めなかったため,STICは否定され,病変をSCOUTと診断した.
SCOUTは新しい概念であり,発見時の臨床的対応のコンセンサスは得られていず,その取扱いに苦慮した.本患者では遺伝性乳癌卵巣癌症候群に関わる家族歴がなく,現時点ではSCOUTは良性変化であると考えられているため,対側付属器摘出術や化学療法は行わず経過観察とした.良性疾患の手術検体においてSCOUTを認めた頻度は12%であったという報告がある.卵管の詳細な病理解析によって偶発的にSCOUTを経験する機会は増えると考えられ,今後その臨床的意義が解明され取扱いのコンセンサスが得られることを期待する.
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