Trousseau症候群は悪性腫瘍に伴う血液凝固能亢進により脳梗塞を生じる病態である.未分画および低分子量ヘパリンが抗凝固療法の第1選択とされるが,悪性腫瘍摘出後の抗凝固療法として未分画ヘパリンと直接経口抗凝固薬(DOAC)を使用し,良好な経過となったTrousseau症候群を合併した卵巣癌の1例を経験したので報告する.
症例は65歳の2妊2産の女性で突然の構音障害で前医を受診し,頭部MRI検査で右前頭葉の脳梗塞と診断された.造影CT検査および造影MRI検査で骨盤内に充実性部分を伴う多房性腫瘤がみられたため当院に紹介された.Trousseau症候群を合併した右卵巣粘液性癌と診断し手術療法を施行した.病理検査で右卵巣粘液性癌IIIA1期と診断した.術後1日目に肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症を発症し,未分画ヘパリン持続静脈注射を開始し,術後7日目からDOACであるエドキサバンによる抗凝固療法へ変更した.術後補助化学療法としてパクリタキセル・カルボプラチン療法を計6コース施行し,現在まで1年半経過しているも,卵巣癌およびTrousseau症候群の再発所見はなく経過している.
本例は卵巣癌に併発したTrousseau症候群に対してDOACを使用した最初の報告であり,特に原因腫瘍摘出後ではDOACが卵巣癌におけるTrousseau症候群でも有効である可能性が示唆された.
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