生殖可能年齢の乳癌患者は癌治療による妊孕性低下が危惧される.今回我々は乳癌術後化学療法前に受精卵を凍結し,癌治療後,融解胚移植で妊娠・分娩に至った症例を経験した.症例は33歳女性,G0P0,既往歴・家族歴はなし.検診で右乳房の腫瘤を指摘され,生検で浸潤性乳管癌と診断された.術後化学療法に対する妊孕性温存目的に当科を受診した.婚約者がおり,未受精卵子凍結・受精卵凍結について両者に説明し,受精卵凍結を希望された.右乳房部分切除とセンチネルリンパ節生検より,浸潤性乳管癌,T1cN0M0,Stage I,ER(-),PgR(-),HER2(3+)と診断された.術後1か月後にlong protocol法で3個採卵後,cIVFで媒精して初期胚2個を凍結した.翌月も同様に10個採卵し,初期胚2個と胚盤胞4個を凍結した.術後約15週間後から化学療法を開始し,放射線療法を併用した.その後抗HER2薬(トラスツズマブ)投与後7か月以上経過し,乳腺外科医より妊娠許可を得てホルモン補充(HRT)周期下凍結融解胚移植を行い妊娠が成立した.妊娠10週までHRTを行い,乳癌の再発所見なく妊娠41週1日に経腟分娩に至った.本症例はER(-)乳癌であり,癌治療後,比較的早期に妊娠許可を得たが,妊娠時期は乳癌のサブタイプや再発リスクから個別に判断される必要がある.乳癌患者の妊娠許可を含め,文献的考察を交えて報告する.
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