書誌情報

第57巻 第4号

  • 書誌情報
  • 全文PDF

症例報告
Peritoneal inclusion cystに対してジエノゲスト療法が効果を認めた2症例の検討
上井 美里1)2), 茂木 真1)2), 松田 祐奈1)2), 大西 純貴1)2), 岡本 愛光2)
1)厚木市立病院産婦人科
2)東京慈恵会医科大学産婦人科学講座
関東連合産科婦人科学会誌, 57(4):587-593, 2020

 Peritoneal inclusion cyst(PIC)は多様な原因で生じた骨盤内癒着による閉鎖腔への腹水,浸出液が貯留した状態を指す.これに対する薬物療法としては,腹水の吸収改善に関与しているGnRH agonist,LEP製剤による症例報告が散見されるが,今回,腹水生産抑制の可能性が高いジエノゲストの使用によりPICの縮小が確認された2例を経験した.症例1は45歳2妊2産.子宮腺筋症と左卵巣内膜症性囊胞に対して腹式単純子宮全摘術と左付属器摘出術を施行した.術後に骨盤内感染を生じたが保存的加療により改善した.手術5か月後に右下腹部痛を主訴に受診され,骨盤右側に10 cm径の多房性囊胞性腫瘤を認めた.囊胞壁に偏在する正常卵巣構造が確認されたことからPICと診断し,患者の同意を得てジエノゲストの投薬を開始した.投薬後6か月でPICは著明に縮小し,ジエノゲストを中止した.中止後1年8か月経過したが再発を認めていない.症例2は31歳0妊0産.子宮筋腫と両側卵巣内膜症性囊胞に対して腹式子宮筋腫核出術と両側卵巣囊胞摘出術を施行した.術後に両側卵管留水症が生じ両側卵管摘出術を追加した.その後体外受精で妊娠に至っており,帝王切開が施行されたが,腹腔内には強固な癒着所見が確認された.初回手術4年0か月後に腰痛,月経不順で再び受診され,骨盤内に9.6 cm径の多房性囊胞性腫瘤を認めた.穿刺吸引,腫瘍マーカー,画像所見,そして既往歴よりPICと診断し,6か月間のリュープロレリン投薬を行ったが,PICの増大を認めたため,患者の同意を得た上でジエノゲスト投薬に変更した.1年9か月間ジエノゲスト投薬を行ったが,PICの縮小を認めないものの増大もなく,腰痛が改善されたため一度中止とした.しかし投薬中止後よりPICの増大と腰痛の再燃を認めたことから,6か月間のゴセレリン投薬を行った.これによりPICは縮小したが,ゴセレリン中止後に再度増大したため,以前PICのサイズ縮小に至らなくても状態維持の効果を示したジエノゲストの再投薬を,初回手術8年11か月後より開始した.今回は4年3か月もの長期間の服用を行った結果,初回手術13年2か月後にPICの消失が確認された.
 以上より,腹水生産量および腹水吸収能力の均衡に由来するPICにおいて,GnRH agonistやLEP製剤の投薬が困難な症例や,その効果が乏しい症例においても,腹水生産抑制という従来とは別の観点からジエノゲストが有効である可能性が示唆された.今後PICに対する薬物療法としてジエノゲストが選択肢となり得るか,検討を継続していきたい.

Key words:dienogest, peritoneal inclusion cyst
他地区の会員で全文PDFをご覧になりたい方は、学会事務局へお問合せください。

一般社団法人
関東連合産科婦人科学会

〒102-0083
東京都千代田区麹町4-7
麹町パークサイドビル402
(株)MAコンベンションコンサルティング内
E-mail:kantorengo@jsog-k.jp

一般社団法人関東連合産科婦人科学会

ページの先頭へ

Copyright © 一般社団法人関東連合産科婦人科学会