羊水塞栓症は母体死亡率が極めて高く，生存例でも低酸素脳症による神経学的異常を発症する．後遺症なく救命した心肺虚脱型羊水塞栓症の一例を報告する．
　40歳，2妊1産．妊娠37週2日に既往帝王切開，全前置胎盤の診断で帝王切開術を行った．胎盤娩出直後に収縮期血圧が70 mmHgに低下し呼吸停止と無脈性電気活動となった．心肺蘇生を開始し2分後に自己心拍が再開した．心停止後より非凝固性の出血を認め輸血を開始したが播種性血管内凝固症候群のため止血に難渋し，術中出血量は5,074 gとなった．輸血後もショックの遷延を認め，VA-ECMO（Veno-Arterial extracorporeal membrane oxygenation）を導入した．C1インヒビター製剤，循環作動薬，肺血管拡張薬を投与し血行動態は改善した．連日輸血を行ったが腹腔内留置ドレーンからの血性排液量が多く凝固異常が続き，術後4日目に経カテーテル動脈塞栓術を行った．その後循環動態は安定し同日VA-ECMOを離脱，術後6日目に抜管し術後16日目に退院した．総出血量は17,419 g，自己血600 mL，RBC 94単位，FFP 134単位，血小板130単位を輸血した．
　心肺虚脱型羊水塞栓症は心不全治療に加えて凝固異常や出血管理が重要で，迅速な蘇生処置と大量輸血，動脈塞栓術により後遺症なく救命することが可能であった．