卵巣静脈血栓症(OVT:ovarian vein thrombosis)では,約25%に肺血栓塞栓症(PTE:pulmonary thromboembolism)を合併し,その死亡率は約4%と高い.妊娠中のOVTの頻度は,全妊娠の0.05~0.18%と非常に稀で,そのなかでも人工妊娠中絶後にOVTを発症した報告は非常に少ない.今回,人工妊娠中絶後にOVTおよびPTEを発症した1例を経験したため報告する.
症例は43歳の女性で,妊娠9週に人工妊娠中絶のために子宮内容除去術を受け,術後2日目に38度台の発熱と右下腹部痛を生じた.術後6日目の造影CT検査で右卵巣静脈血栓と両側肺動脈血栓が認められたために当院へ緊急搬送された.骨盤部MRI検査で子宮と両側卵巣に異常はなかったが,右卵巣静脈周囲に炎症像がみられた.右卵巣静脈血栓性静脈炎および両側PTEと診断し,抗凝固療法と抗菌薬の投与を開始した.その後,PTEの増悪はなかったが,炎症反応の改善は緩徐で長期間の抗菌薬の投与が必要であった.術後1.5か月で施行した造影CT検査では右卵巣静脈の血栓が残存していたために直接経口抗凝固薬を継続し,術後10か月に血栓の消失を確認し内服を終了した.
人工妊娠中絶後に発熱や右下腹部痛を認めた場合には,稀ではあるがOVTを鑑別疾患に挙げ,D-dimerの測定や造影CT検査を考慮すべきと考えられた.
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