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─報告─

ステロイド使用患者の持続ウイルス排泄が伝播に関連したと考えられるノロウイルス胃腸炎集団発生事例

長崎 奈穂1), 田中 裕之2), 徳田 浩一3), 川村 英樹4), 児玉 祐一4), 藺牟田 直子5), 西 順一郎4)5)
1)鹿児島県立薩南病院医療安全対策室, 2)同 総合診療科, 3)東北大学病院感染管理室, 4)鹿児島大学病院感染制御部, 5)鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野


移植や癌の化学療法中の免疫不全者では,ノロウイルス(NV)排泄期間が長期化することが知られているが,ステロイド薬使用中の患者での排泄遷延が院内感染に関連したという報告はみられない.ステロイド使用患者が多い内科病棟で,201X年3月,患者4名,職員1名のNV胃腸炎の集団発生が起きた.発症者2名がみられた多床室に,1例目の発症から23日前にNV胃腸炎で入院し,症状が軽快したため転棟したステロイド療法中の特発性間質性肺炎の患者が同室していた.この患者のNV持続排泄を評価する目的で,感染性のあるウイルス粒子を検出できる糖鎖固定化金ナノ粒子(SGNP)を用いた高感度ウイルス検査(SGNP-RT-qPCR)を実施したところ,発症から35日経過した時点で陽性であった.したがって,本患者は発症者2名と同室の時期に,下痢症状はないもののNVを排泄していたことが推定され,今回の多発事例の発端となった可能性が示唆された.また,ステロイド薬使用中に発症した他の患者1人も,発症10日目の本法による検査が陽性になった.今回の事例をふまえ,ステロイド治療を受けたNV胃腸炎患者の隔離解除については慎重に行う必要があると考えられた.また,感染性のあるウイルス粒子を検出できるSGNP-RT-qPCR法は,ステロイド薬使用患者や免疫不全者が多い病棟において,院内感染対策に有用性が高いと考えられる.

Key words:ノロウイルス胃腸炎, 集団発生, ステロイド薬, 高感度ウイルス検査, 遺伝子診断

連絡先:
e-mail: nishi1@m2.kufm.kagoshima-u.ac.jp

受付日:2019年9月9日
受理日:2019年11月15日

35 (1):63─68,2020

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