─原著─
下部消化管手術における術後予防抗菌薬廃止に向けた取り組みおよびその成果
山本 恭子1), 伊藤 裕司2) 1)掛川市・袋井市病院企業団立中東遠総合医療センター看護部, 2)同 総合内科
下部消化管手術の手術部位感染予防における周術期抗菌薬は,アメリカ疾病予防管理センター等ガイドラインでは術前~術中のみの投与が推奨され,日本では術後24時間以内の投与が推奨されている.当院でも2018年11月より結腸,直腸手術の予防抗菌薬術後投与廃止に取り組んだため,取り組み前後のSSI発生率の比較を目的とし本研究を実施した.2014年2月~2021年4月に行われた結腸,直腸の待機手術を対象とし,取り組み前後(前:A群[545例],後:B群[295例])で,SSI発生率を多変量ロジスティック回帰ならびに分割時系列分析で比較した.A群に対するB群のSSI発生の調整後オッズ比(OR)は1.09[95%信頼区間0.73-1.63]であった.感度分析としてA群中で実際に抗菌薬投与を継続した541症例と,B群中で実際に術後投与を廃止した241症例でも同様の解析を行い,ORは1.20[0.78-1.78]であった.分割時系列分析ではSSI発生率に変化はなく(トレンド変化-1.32%[-2.82%-0.17%]),術後入院期間はB群で延長しなかった(それぞれ17.4±13日と14.8±9.7日,p = 0.004).取り組み前後でSSI発生頻度の増加がなく,入院期間の延長がみられなかった.単一施設の後ろ向きデータの解析から,術後投与日数の短縮がSSIの発生率に影響しないことが証明された.
Key words:抗菌薬適正使用, 周術期抗菌薬投与日数, 手術部位感染, 下部消化管手術, 分割時系列分析
連絡先: e-mail:
kansen@chutoen-hp.shizuoka.jp
受付日:2022年12月13日 受理日:2023年3月25日
38 (4):192─199,2023
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