─proceedings─
病院環境中の真菌
田代 将人1)2) 1)長崎大学大学院医歯薬学総合研究科臨床感染症学, 2)長崎大学病院感染制御教育センター
環境で目にする黒カビの多くはクラドスポリウム属であり,多くは深在性真菌症の原因とならない.一方で病院環境中の真菌で重要視すべきは,致死率の高い侵襲性肺アスペルギルス症の原因となるアスペルギルス属である.アスペルギルス属は無性胞子である分生子が空気中を浮遊しており,免疫抑制患者が吸入することで侵襲性肺アスペルギルス症を発症する.侵襲性肺アスペルギルス症の発症リスクが高い患者が入院する病棟は,血液内科病棟,集中治療室,および肺移植後患者の入院病棟であり,これらは病院環境中の真菌を特に意識すべき場所である.我々が長崎大学病院で実施した環境調査では,HEPAフィルターの使用で空気中の浮遊真菌の有意な減少が確認された.また,病院環境中のアスペルギルス属の分布において空気と塵埃は類似の分布を示し,塵埃の採取で間接的に空気中のアスペルギルス属の分布を調査できる可能性が示唆された.アスペルギルス属は植物,土,および塵埃などに多く生息しているため,病院環境中のアスペルギルス属を減少させるためには,病棟への観葉植物の設置を避け,環境の適切な清掃により塵埃の堆積を防止することが重要である.また塵埃の飛散行為はアスペルギルス属の拡散につながるため,特に血液内科や集中治療室など侵襲性肺アスペルギルス症のリスクが高い病棟においては,工事や空調のフィルター交換等の際に塵埃の飛散防止対策が必要となる.
Key words:真菌, アスペルギルス属, 塵埃
連絡先: e-mail:
mtashiro@nagasaki-u.ac.jp
受付日:2023年12月6日 受理日:2023年12月25日
39 (2):31─36,2024
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