─総説─
本邦におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の流行型の変化
中南 秀将 東京薬科大学薬学部臨床微生物学教室
近年,院内と市中の双方において,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の流行型が大きく変化している.2010年以前は,院内で分離されるMRSAの約8割がstaphylococcal cassette chromosome(SCC)mec type IIの典型的な院内型MRSA(healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)であった.しかし,2014年以降はSCCmectypeIVの市中型MRSA(community-associated MRSA:CA-MRSA)であるUSA400 clone類似株が主流となった.市中においては,USA300 cloneと呼ばれる強毒型CA-MRSAによる皮膚感染症が増加している.USA300 cloneは,白血球溶解毒素であるPanton-Valentine leukocidin(PVL)と皮膚への定着能を亢進するarginine catabolic mobile element陽性であることから,難治性の皮膚感染症や壊死性肺炎を惹起する.これまで,本邦においてはUSA300 cloneの流行は限定的であり,大きな問題となることはほとんどなかった.しかし,最近,USA300 cloneが市中だけでなく院内にも伝播している.本稿では,これまでに我々が解析してきたHA-MRSAとCA-MRSAの流行型の変化と現在の流行状況について概説する.
Key words:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌, 院内型MRSA, 市中型MRSA, USA300 clone, アウトブレイク
連絡先: e-mail:
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受付日:2022年5月31日 受理日:2022年7月6日
37 (5):164─173,2022
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